チャイルド44


 チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

これは面白かった&すごかった。まるで映画を見ているように場面のひとつひとつが印象的。あとミステリー部分はありがちな設定で弱いんだけども、1950年代当時のソ連(ロシア)の描写がとっても素晴らしいです。
スターリン体制下で生きるとは、毎日が生と死の狭間にいるようなもの。その緊迫感と他人だけでなく身内をも信じてはならない社会の恐怖がまざまざと伝わってきます。

上巻はエリート捜査官だったレオが部下の罠にはまり、片田舎の警官へ転落させられるまで。事件の捜査が進展するのは、下巻から。だから上巻を読んでいる時点では、ミステリーということをすっかり忘れて、だましだまされる緊迫のドラマにハラハラ。

超美人で従順な妻ライーサだけど、彼女は彼女で生きるためにレオと結婚。上巻はそんなそぶりがなかっただけ、下巻でのさまざまな告白に驚き。
ほかにも上巻の○○は、実は……という設定が多くて、下巻を読み出すと一気に読了したほど。

当時は世界大戦からまだ10年しかたっていなかったのもあって、その過去の凄惨さも物語の闇を深くしています。
事件の犯人はすぐに名前が出るので、ああ、彼か、とすぐにわかるんだけども、肝心な動機がなかなかわからない。ようやくラストに語られる段階になると、意味があるのか無いのかよくわからなかった、プロローグがじつは壮大は伏線だったというオチがすごい。まさしくこれが一番のミステリーであり、作品の肝という。

堕落した資本主義とちがって、楽園の社会主義には犯罪など存在しない。という考えが驚きのひとこと。そしてそんな社会に疑問を持つことこそ、罪深い犯罪者。
だから連続殺人犯がいても、なかなか逮捕されるにいたらない。それどころか無実の社会的弱者が処刑されちゃうんだから、狂っているとしかいいようがないです。
あくまでもフィクションなので、どこまでが真実なのかは定かではありませんが、建前は平等なはずの社会・共産主義こそ、階級闘争が激しい政治体制なんだな、というのをあらためて認識するのにも、おすすめの一冊です。

デビュー作でしかもまだ29歳のときに作品を発表したんだから、それも驚きのひとつ。おまけにロシアでは発禁書に指定されたというのも、作品の評価を高くしているのかも。(それだけ当時の真実に近い描写なんでしょう)
上下巻。

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