大聖堂


[合本版]大聖堂(上中下) 全3巻 (SB文庫)

評判にたがわずとっても面白かった! これだけ長い物語にもかかわらず、常に起伏があって読者を飽きさせない愛憎の人間ドラマな展開がすごすぎる。それでいて登場人物に感情移入しやすく読みやすいんだから、絶賛されるのも納得。あと中世当時のイングランドの描写が細かくて、暗黒のイメージに覆われていた時代が払拭されました。堅苦しくないのがよかったです。
続きが気になってたまらず、今週は寝不足。まさに寝食を惜しむほど面白い書物(笑) 休日に残りを一気によんで大満足の読後感でした。

初めの主人公、建築職人トムの苦難に引きこまれます。始まりから波瀾万丈が続き、彼らはどうなるんだろうとはらはら。途中、妻が亡くなり、新しく家族になったエリンとジャックが個性的。娘のマーサは愛らしく、息子のアルフレッドは愚鈍。
そして気になるのは、旅の途中で捨てた赤子。生まれたばかりの彼がどうなるのかも、気になる伏線です。ラスト近くでようやく動くんだから、壮大。それまで忘れかけていたよ、という。

そして中巻になると、伯爵令嬢アリエナの苦難と成功、そして挫折にはらはら。初めはあまり登場しなかったんだけども、ハムレイ家に爵位を簒奪されてしまい、地に落ちる一家の描写が涙モノです。弟のリチャードはあまり賢いとはいえず、姉のアリエナが奮闘するのが健気。そして、恋を知り、結ばれるも、別の男と結婚してしまい……という、展開に釘付けでした。読むのがやめられないほど。
あと王位継承争奪の戦争描写に圧巻。中世の騎士たちの戦争描写が濃いのに大感激。まるで映画を見ているよう。どのシーンもだけど、説明は控えめにして、そのぶん臨場感あふれる描写がページを割いています。

下巻からはトムのあとをついだアルフレッドが挫折し、代わりに成長したジャックが棟梁になります。そんな彼や上巻からの主人公、フィリップ修道院長を悩ませるのはまたも、ウィリアム・ハムレイ卿。無防備な町を武装した騎士隊で襲うのだから、卑劣な悪漢ぶりを発揮。
そして彼らの陰謀がまたもめぐらせれ、フィリップは窮地に……。

大聖堂の建設を軸にした人間ドラマが展開されるのですが、善悪が割合はっきりしています。とくに全編を通しての悪人、ウィリアム・ハムレイ卿の悪どさがドラマ的。おまけに美徳など微塵もなく、あるのは私欲と傲慢。領主としても統治が下手で、戦場でも王を見捨ててこっそり逃亡する具合。まさしく、くずの中のくずな貴族。初っ端の登場から、邪魔な道行く幼女を馬で蹴り殺そうとするんだから、俗悪の塊です。
しかしそんな彼も奸智に長けた醜女の母には頭が上がらず、亡くなったあともその陰におびえるシーンも多々有り、弱い部分もきっちり書かれているのが人間臭くてよかったです。

ウィリアムが悪役王なら、格は落ちるけどもうひとりの悪役、アルフレッドもかなりのくず。彼のおかげで、ジャックやアエリナたち主人公は何度も、苦しみを与えられるのだから、どうしようもないです。いつか改心しそうで、死ぬまでそのまんま。くずはどこまでもくず、という描写がかえってすがすがしいぐらい。成長するほど悪くなるのだから筋金入りです。環境が原因というより、もともとの素質がそうさせた設定が興味深いです。だからいつまでたっても改心しないという。

そんな悪役たちは初めは腹立たしいけども、下巻ぐらいになると彼らがいてこそ、話の起伏がついて面白くなるのだと気づきました。ウィリアムの最期もらしくて、納得。作者がストーリーテラーと呼ばれるだけあります。主人公らどの人物にも長所と欠点があるのが、共感できるのでしょうね。(ただし大悪役の2名には長所がまるでなしw)

感想がうまく書けないのがもどかしいぐらい、本当に面白かったです。たまにこういう書物に出会えるのが、まさしく読書の醍醐味ですね。

続編

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