薔薇はシュラバで生まれる―70年代少女漫画アシスタント奮闘記―と天人唐草


薔薇はシュラバで生まれる―70年代少女漫画アシスタント奮闘記―

試し読みしたらとてもおもしろかったので購読。
少女漫画黄金期に活躍した漫画家たちのアシスタントをした日々を楽しく綴っていました。

シュラバ=修羅場のとおり、締め切り直前の作業場はひたすら絵を書き続け、3日間眠らないのも当たり前だったとか……。もちろん食事だってまともにできず、ひどいときはコーヒーと紅茶のみで乗り切る、というまさしくど根性な職場。現在でいうブラックそのもの。
それでも60代の作者さんはあの頃が一番充実していたのでしょう。アシスタント時代のエピソードがどれも楽しくて面白かったです。

錚々たる漫画家の先生方と、将来の有名漫画家――アシスタントの方が登場します。
そのなかで一番、印象的だったのが美内すずえ氏。
私がまだ小学生低学年だったころ、ガラスの仮面はもちろん、読み切りもたくさん読みました。恋愛モノにはなかったホラーやドラマがとても好きだった。(ただ我が家は貧乏だったので、わりと裕福だった友達の家ですべて読みました……漫画買ってもらえる家が羨ましかったなあ・涙)


美内すずえ氏は高校生でデビュー後、すぐに売れっ子になって旅館で缶詰状態でも、とても気さくで楽しい方。まだ20歳なのに大物オーラがすごく出てました。アシスタントに来たばかりの高校生の作者さんを和ませるために、あれやこれやとシュラバの中お話してくださるとてもいい人。
他誌で読み切りを掛け持ちし月産100ページ以上をこなすだけあって、かなりバイタリティがあり、ネームが終わらないうちにアシスタントに作画をさせ、なんとか原稿が完成したら休む間もなく、また次のネームにとりかかる超人ぶりに驚きました。
なんでもお話の展開にすごくこだわる方だそうで、ネームに超時間をかけてそのぶん、作画が遅れていたとか。
ガラスの仮面の連載中、ネームを 2通り書いて「どちらがいい?」とアシスタントたちに問うぐらいのこだわりよう。それゆえ、名作なのかーと感心した反面、だから21世紀をとうにすぎても完結が難しいのかな、とも。10年ぐらい前だったかな? 雑誌連載したのを単行本化せず、すべて書き下ろしたぐらいですからね…………。


正直なところ本書を読むまでは、ガラスの仮面が完結しないのは作者の体力がなくなってきたのかな、とも思っていたんですけど、その逆で情熱があるあまり、こだわりにこだわってしまって、なかなか理想通りの展開に進めない…………のかな???
あとマヤちゃんたちの服がダサイ(ごめんなさい。でも当時からファッションが今風じゃないと感じていた)のも、美内氏がファッション誌を読む時間すらないほど、多忙に原稿を書いていたのだと、個人的に解釈しました(^_^;)

それにしてもすごいですね、70年代当時は資料そのものが出回ってなかったから、ほとんどアシスタントたちが記憶や想像を頼りにして、絵を描いていたのが!
情報過多でインターネットがある現在だとすぐに資料を揃えられるから便利な時代になったものです。ただ、読み手もそのぶん、知識を持っているため、ささいな間違いでもレビューで指摘されてしまう辛さもありますが……。


つぎに印象的だったのが、山岸凉子氏の天人唐草。
ずっと何年も昔……90年代だったかな? 前情報もなく何気なく読んだら衝撃の内容でした。(ネタバレになるのでストーリーは省略)
そして本書を読んで、さらに衝撃。
だって天人唐草の原稿を描いているさなか、「私、これ書きたくない」といやいや執筆されていたというんですから。
なんでも編集者から「青春モノで」と依頼されたものの、現代日本を舞台にした作品は苦手で、仕方なく唯一思いついたその話を読み切りにしたそうです。
しかも青春モノなのに主人公30歳の中年女性、青春らしい恋愛はなし――そもそもこれは青春がテーマだったの?!と今更、驚愕の事実を知った(^_^;)
ううーん、でもまあ、たしかに青春時代がテーマといえばそうかも。リア充系のキラキラした恋愛や学生生活じゃなくて、それら青春を楽しめなかった少女たちの心の叫び、「私の青春時代を返せ!」ととれる内容だったから。


そして数年後のインタビューで、山岸氏は嫌いだったはずの作品を、「一番好きな作品は天人唐草です」、ときっぱり言い切ったエピソードが好きです。あれを書いてから、自分を出せるようになった、と言われ、のちの作品がそれを物語っています。
……余談ですが、テレプシコーラもかなり衝撃的な作品でした。人間の美しい部分はもちろん、醜い部分を昇華させて描ける作風が素晴らしかったです。

 

3つ目の驚きのエピソードが、萩尾望都氏が79年にLPアルバムを出していたこと。イメージソングなんかじゃなく、萩尾氏ご本人が作詞作曲、ナレーション、そして歌唱まで(!)
…………多才なお方なんですね。その1枚きりで終わったようですが、初めて知った(*_*) そのなかの1曲にシュラバをテーマにした歌があったそうですが、歌詞を見たら笑ってしまいました。漫画家ならではすぎてw

 

そして全体を通した読後感ですが、デビューしても20代でリタイア(ほとんどが結婚や出産)する漫画家と、現在でも現役で活躍する漫画家の差ですが、創作への情熱なのだと思いました。
ほとんどをアシスタント稼業で終わってしまった笹生氏ですが、デビューしても自分の作品を積極的に描かれていません。
いっぽうで有名になった漫画家の方々は、忙しい傍らコツコツと自作を描き続けていました。作品を書かずにいられないのでしょう。有名作家や漫画家の方のエッセイを読むと、○○をどうしても書きたい、や頭のなかでキャラクターが勝手に動く……といったエピソードがあることが多いです。

昔は今と違って、漫画家――とくに女性は使い捨て状態で、早く代替わりするのが当たり前でした。そんな慣習を打ち破ったのが、現在でもヒット作を描き続ける大御所の方々です。
そして、今は若くなくてもチャンスはあるのだと、本書は教えてくれます。
笹生氏は引退後、40代から同人誌を始め、60代で本書の書籍化オファーがあったというんですから(!)


天人唐草 自選作品集 (文春文庫)

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